「トマティス物語」で、波乱万丈の人生を送った博士の自叙伝「耳と人生」を読んでいきましょう。
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TOMATIS物語

「耳と人生」
第T章 黄色い靴 その14

 それに加えて、私の実生活そのものが、同級生のそれとは異質の考え方、人生観を私に植え付けていたということもある。私は彼らとは違うふうにこの世の中を眺めていた。例えば、私はゲームには何の関心もなかった。正確に言うならば、ゲームに加わることに何の喜びも感じなかった。端から見ているだけで十分だった。カードにしても、傍観者でいる方が面白かった。十一歳のときブロットではかなりの腕を持っていた。しかし、いったんそれをマスターしてしまうと、もう続ける気が起こらないのだった。この点ではいまでも変っていない。そのゲームの規則を覚えてしまうと、そこで興味を失ってしまう。それ以上続けたところで、人生には何の足しにならないし、ただそのゲームに長ずるようになるだけのことなのだ。私には、なぜ連中がそんなことにいつも打ち興じているのかが全く理解できなかった。貧弱な規則の中で頭を無駄に回転させているのを見ると、単に暇つぶしというよりも、余りにも退屈過ぎて間がもたないのだった。

 いずれにしても、強い感受性を持つ人たちと同様に、私は生来の観察者なのである。自分の周りに起こっていることを眺め、それを分析することほど面白いことはない。後にこの性格が、研究の上でも、臨床医となってからも、大いに役立ってくれた。しかしそうなったのは、先天的というよりも、私が同年代の少年たちよりもむしろ大人たちとよく付き合っていたからだろう。私には、大人たちの方がずっとしっくりとした。私が孤高な風をしていても、大人の気に障ることはなかった。世代の違いということで、それが当然に見られたのだった。私は憚ることなく彼らの話に耳を傾け、飽くことなく彼らを眺めていた。それが同級生の前でとなると、私の引っ込み思案はただ容赦なく、お高くとまっているとみられるだけだった。臆病な子どもは常に、この点で貧乏くじを引く。本当は単なるはにかみから、あるいは劣等感から畏まっているに過ぎないのに、連中はそうはとってくれず、一種敵意とみる。とにかく私は臆病だった。度し難い臆病だった。そのためにいつも、対人関係は深刻にもつれるのだった。

 仲間はずれにされた私は、いつも勉強への没頭という補償行為に逃れた。それがますます彼らとの間の溝を深めるのだった。いくつかの教科では、あまり進み方が遅いので、私はひとり先に進んでいた。教師がまだ扱わない先の章をどんどんと開拓していった。朗読が効果をあげて、膨大な知識を蓄えることができた。それと平行して私の精神構造も堅固になっていった。最終学年では、先生がタキトゥスの一節を読むと、即座に訳せるまでになっていた。先生はそれが嬉しかったらしく、最後の項には私一人だけを相手に講義をした。他の生徒が聞こうが聞くまいがお構いなしに、ラテン語のテキストをどんどん読み進めていくのだった。
 数学だけは何人かの生徒に引けを取っていたので、よけいにガリ勉となった。そうしなければ、かなり低い点を取っていただろう。私はいつものやり方で全力を尽くして自分の脳を数学的な考え方に慣らそうと努めたのだった。そんなある日、学校から父宛てに手紙が舞い込んだ。校長の名で、パリに来られたときに是非お越しいただきたいと書いてあった。そんなはずはない。成績も素行も別に悪くないし・・・・。そう考えながらも頭から血が引いた。知らずに何か重大な過ちを犯してしまったのだと思った。しばらくしてヌーイにやって来た父は、さっそく学校に行った。校長は、私の数学の先生と一緒に父を迎えた。
 「トマティスさん、とてもご想像できないでしょうが、私はある日、生徒たちにもし君たちの中に追加練習問題をやってみたいと思う者ものがいたら、いつでも見てやろうと言ったのです。私は毎年、自分の担当する全クラスでそう提案するのですが、これまでは何の反応もありませんでした。それがムッシュウ・トマティス、あなたの息子さんが申し込んできたのです。その日以来私は、自分の全時間を余暇の楽しみまでなげうって添削に追われることになりました。今では鞄も、その練習問題だけでいっぱいです。全くどうしてよいやら分かりません。ムッシュウ、お願いです。何とかして下さい。息子さんに、私が可哀そうだと思って、もう少し手加減するように頼んでいただけないでしょうか。」

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