| 記事 No.13 |
1995年 2月号 雑誌Quark |
音は脳のエネルギー源

耳がよくなれば頭の働きも活性化する
同じ感覚器官でも「目」と比べるとおろそかにされているきらいがあるのが「耳」。ところか実はその耳に知られざる働きが潜んでいるという。「耳を通して伝えられる音は脳のエネルギー源になる。当然、耳がいいほど脳は活性化され、頭の働きが活発になるのてす」 というのは、このほど、著書「モーツァルトを科学する」の出版記念講演のために来日したフランスのアルフレッド・トマティス博士てある。エネルギー源といっても、脳の栄養グルコースの働きという意味ではない。脳の働きそのものに刺激を与え、活性化するという意味である。
トマティス博士によると、生物の耳は脳の発達に比例して複雑に進化しているという。人間の耳は外耳、中耳、内耳に分かれ、内耳には前庭や半規管、蝸牛管などの器官があるが、これほど綿密な構造の耳を持っているのは、哺乳類だけ。魚類などの内耳には前庭と呼ばれる空洞部分かあるだけという。
もっとも、この高度な耳を人間は生かしきっていないという。「耳がよければいい声を出せるようになる。姿勢も良くなるし、性格も積極的に変わります」 ちなみに博士には耳の治療を通して、オペラ歌手、マリア・カラスの発声域の拡大に成功した実績もある。
また、多くの人がなかなか外国語が習得できないのも耳の働きが忘れられていることによるという。「専門的にいうと、中耳の鎚骨筋とアブミ骨筋の機能のバランスによるものですが、民族によってパスバンド、つまり音が優先的に聞こえる周波数帯が違っているのです。同じ音でも、たとえばイギリス人は高音部が比較的よく聞こえ、アメリカ人やフランス人は中音が、また日本人の場合は、1500ヘルツまでの中低音がよく聞こえる。逆にその音域外の音は聞き取りにくい。だから、聞き取れない音域の発声や、外国語の微妙なイントネーションやアクセントかマスターできないのです。ロシア人が外国語のマスターが早いのは、パスバンドの範囲が非常に広いからてす」
同じ音の聞こえ方が民族によって微妙に違っているわけだ。
人間の内耳は母親の胎内で、4ヵ月半で完成する。その時点では耳の機能に民族差はない。しかし、胎内で両親の話し声などを骨伝導を通して聞いているうちに、それぞれの言語固有のリズム、イントネーションを習得していくという。博士は、この言語の聞きとりのはじまる胎児の聴覚までさかのぽって耳の発達をたどる語学学習プログラムも開発した。
そのプログラムの切り札ともいえるのが、モーツァルトと、博士が考案した電子耳(エレクトロニックイヤー)。電子耳とは聞く人のパスバンドおよびリズム、イントネーションをそれぞれの外国語に調整する電子機器のこと。ではモーツァルトにはどんな働きが?「モーツァルトの音楽には、どの曲にも共通したリズムがあり、我々の神経を活性化してくれるのです」
外国語にチャレンジしようとする人はまず、よい耳でモーツァルト鑑賞に取り組んでみては?
取材・文/常蔭純一 撮影/矢崎直樹
アルフレッド・トマティス:医学博士。1920年生まれ。パリ大学医学部卒。耳鼻咽喉外科医をしながら音声医学を研究。「人は聞こえる範囲の音声しか発声できない」という原理(トマティス効果)を発見。数々の臨床経験から、電子的に作った人間理想写(電子写)を発明。聴覚・心理・音声的治療や語学学習法として世界に広め

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