| 記事 No.3 |
1994年2月19日(土曜日)朝日新聞(夕刊) |
同じ音でも国が違うと

三月三日は耳の日。この日が近づくと鶏の声が気になってくる。東京のフランス人学校に通っていた娘が、鶏の鳴き声をどう言うのか聞かれて、「コケコッコー」と答えたところ、クラス中の笑い者になって帰ってきたことがあったからだ。そういえは、イギリスでは「コッカァドゥードゥルドゥー」、ドイツでは「キケリキー」、フランスでは「ココリコ」である。

聴覚教育の仕事を始めるようになって、国によって鶏の鳴き声が違うのではなく、聞こえ方が違うということが分かってきた。英語のビーフステーキは、仏語だとビフテック、日本語ではビフテキとなる。
聴きとれない外来語は自国風に加工する。英語の耳、仏語の耳、日本語の耳が存在することになる。となると子音が主体で、二重母音化が多く、高周波音域に属する英語を、母音の豊かな、低周波を得意とする日本人の耳が正しく聴きとれるのだろうか。
モーツァルトも、人種によって聞こえ方が違う。周波数や一秒間に話す音節数など、それぞれの人種の聴覚に合わせた電子の耳を使い、イギリス人の聴覚で、三人のフランス人にモーツァルトを聴いてもらった。三人ともモーツァルトらしくないという感想だった。
私が主宰するトマティスセンターで三月十三日、電子の耳を使って、イギリス人やフランス人やロシア人の聴覚でモーツァルトを聴いてもらう企画を立てている。新しいモーツァルトの発見があるだろうか。
(トマティス・ジャパン代表)
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